教養と選択科目

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 いざドイツ語とフランス語の講義が始まると、思っていたよりずっと難しかった。  見たこともない単語がずらっと並ぶ教科書というのはこんなにとっつきにくいものかと、心底驚いた。同じ大学で学べる語学でも、英語の難しさとは比べものにならなかった。  何しろ英語ではaやtheにあたる冠詞すら、私はドイツ語とフランス語だと目にして読むのは初めてだった。  ドイツ語の冠詞の活用を「デアデスデムデン」と言葉遊びみたいに母が口ずさんでいたのなら覚えているけど、der des dem denを実際に読んだことはない。そんな具合だった。    ドイツ語の先生はユーモラスなおじさんで、「ドイツ語を勉強」という、ドイツ語の難しさを皮肉るニュアンスの、冗談ふうの定番の台詞があった。  要はドイツ語の難しさを日本語で比喩(ひゆ)的に表しているらしく、先生本人だけは言い得て妙と自信満々な雰囲気だった。みんなはおやじギャグ的に受け止めていた。  それでもドイツ語(独語)の講義は予習しないとついていけなかった。  時々あてられて教科書内の独文(どくぶん)を日本語訳しなくてはならず、全く手が抜けなかった。
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