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言い寄られる
河北の家は男三人、互いに自由に暮らしている。
息子の英知は大学生でサークルやバイトで忙しく、父親の次郎は仲間と体操やゲートボールを楽しんでいた。
そして邦男は市役所勤めで、仕事が終わると夕食をしにかならず行く場所がある。
「はぁ、今日も一日ご苦労様でした」
自分にご褒美。ビールを一杯ゴクリと飲んだ。
「河北さん、お疲れ様です」
そこには男だが癒しの存在がある。食堂を一人で切り盛りしている店主の沖駿也の存在だ。
「うんうん、一日一度の駿ちゃんだよねぇ」
まず、雰囲気が柔らかいのがいい。優しく包み込まれる、まるで母親のようなひとだ。
どこか懐かしい家庭の味というのもこの店に足を運ぶ理由の一つだった。
「なんですか、それ」
くすくすと笑いながら日替わり定食を置く。今日は新玉と生姜焼きだ。
「うわぁ、いいねぇ、生姜焼き」
「利久君がね、食べたいって」
河北のすぐ隣、背が高く人懐っこい顔をした青年がにっこりと笑う。
「あ……、利久君、今日も来てたんだねぇ」
その姿を見て癒されに店に来たというのに一気に気持ちが重くなった。
南利久。河北の息子とは同い年で幼稚園のころから大学まで同じ学校に通っている。
二十歳の誕生日を迎え、河北が誕生日おめでとうという言葉を告げるよりも先に、
「好きです。付き合ってください」
と告白をされた。
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