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そう、その時の河北は散々だった。
いつものように沖の店でビールを一杯。そして鱈の香草焼きを美味しくいただいていた。
常連と会話で盛り上がり、楽しい気分のまま家へ帰るはずだったのだ。
まず、告白をされて椅子から転げ落ちた。
「河北さん!」
慌てた様子の沖の声。何も反応できずに呆然と地べたに座ったままの河北を助け起こしたのは利久だ。
「大丈夫ですか。腰を打ったりは……」
河北にとって落ちたことより利久の告白の衝撃が大きい。
ゆっくりと利久の方へ顔を向けると引きつりながら、
「え、あ、やだなぁ、おじさんをからかわないでよ」
と利久の肩へと手を置いた。
だが相手は真剣な表情を浮かべてこちらを真っすぐと見つめている。
「いえ、本気ですから。河北さんは俺の初恋の人なんです」
男同士の恋愛に対しては別に嫌悪感はないし、恋愛に対してもまだチャンスがあるのならしたいと思うが、相手が自分の息子と同じ年だというのは抵抗がある。しかも幼き頃からよく知っている子だ。
「利久君、俺と君のお母さんが同級生なのは知っているよね?」
「はい。それでも好きなんです」
一人の男としてみてくださいと利久が言う。
「利久君、困るよ」
「はい。困らせることは重々承知してます。でも、俺は引きません」
といい、毎日好きだと告げるために店へと来るようになった。
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