給餌行動

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給餌行動

「……おいしい!」  エリナはそう言って歓声をあげた。  サンドイッチの表面は軽く焼いてあり、中にはハムとチーズが挟まれてある。挟んでからも軽くあぶっているのか、あたたかなパンを一口齧ると、とろりとしたチーズがエリナの口を喜ばせた。  ひとつをあっという間に食べきってしまって、エリナが次を、と手を伸ばそうとすると、それを先回りするようにしてクーが手にサンドイッチをもってエリナに手渡した。 「……?ありがとう」  渡されたサンドイッチを頬張る。今度の具は炒められた玉ねぎとローストビーフだった。胡椒がぴりりと効いて非常においしい。 「エリーがおいしいならよかったです」 「おいしい。でも多すぎないかしら。食べ切れなくてもったいないわ」 「大丈夫です」 「……?」  メイドたちに下げ渡す、とかだろうか。エリナにはとんと縁のない文化だが、竜王ともなるとそういうのもあるのかもしれない。  けれど、エリナのその考えは一瞬にして覆される。 「残ったら、全部僕が食べます」 「食べる?食べるって、この量を?ものすごい量あるわよ」 「大丈夫。僕はもともと大食漢なんです」  微笑むクーに、そう言えば、とエリナは思い出した。 「そう言えば、あなた、クー。私の三日分のシチューを一度で食べ切るひとだったわね……」 「うっ、それは、おいしかったので……つい……すみません」 「別に怒ってはないけど」  その余計な肉のついていない体のどこにあの量がはいるのか不思議だっただけだ。  それとも竜種はもともとよく食べるのだろうか。クリスだって結構な量を食べていた。  エリナがごくん、と最後のひと口を飲み込むと、クーは今度は葉野菜の多く入ったサラダをフォークで刺して、エリナの口元に持ってきた。 「……?」  断る道理もないので素直に口を開ける。  甘酸っぱいドレッシングが葉野菜の苦みを打ち消して、逆に甘みを感じさせる。おいしかった。  エリナが咀嚼しおわるたびに、クーはそうやってエリナに食べさせた。  差し出されたものをエリナが食べるたびにクーはうっとりと目を細めるので、義務とか、そういうものではないのだろう。  クーはエリナの視線をよく見ていて、エリナが次はあれを食べたい、と思う頃にはもう目の前に用意されているのだ。 「……楽しい?」 「はい。楽しいです、とても」 「そう……」  楽しいなら、まあ、いいか。  ここに来てから、エリナはクーに甘くなってしまっているような気がする。  あんなに怖かったのに、いざ来ると肝が据わってしまうと言うか。  眠ったからだろうか。少しひりつきかけた空気を緩めてくれたエルフリートにも感謝だ。 「……もしかして、給餌?」  竜種にはそういう習性があるときいたことがある。  番に対する愛情表現の一種で、竜種は食事を自分の手から取らせることに喜びを覚えるのだと言う。  エリナの言葉に、クーが一瞬呆けた顔をして――次いで、その耳を赤く染めて口を押えた。  そんなつもりは、すみません、と言い訳しているあたり、無意識だったのだろう。  わかりやすく求愛されて、エリナも顔を赤らめる。  気を取り直すように、もうおなかいっぱいよ。と口にした。 「もう食べられそうにないわ。クー、本当に食べられるの?」 「はい。言ったでしょう?僕、大食いなんです。では僕もいただきますね」
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