憂鬱な黒猫を知りませんか?

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 放課後。  俺は隣に可愛い彼女を連れて、自宅付近の公園までやってきた。  どうしよう。誰かに見られたい。  普通は逆だろうと思うけど、今はめっちゃ誰かに自慢したくてたまらない。 「ここ! このベンチが映ってたよね!」 「う、うん」  莉央は自分のスマホを取り出し、ベンチに座っている自分を自撮りして確認している。  これはガチな信者だ。  ちょっと不安になってきた。 「あのさ。それ、拡散したりするの?」 「拡散まではしないけど、教えたい人がいるんだよね」  それは困るかもしれない。 「あんまりそういうことしない方がいいんじゃないかな?『憂鬱な黒猫』に迷惑がかかるんじゃないかな」 「うん……それはそうだけど」 「ファンだったら、何をしてもいいってわけじゃないよ」  莉央はスマホから俺に視線を移動させた。  注意されてちょっと拗ねてる顔も可愛いな!  って、見つめられすぎていないか⁉︎  ジュッと音が出そうなくらい、熱く見つめられている気がする! 「羽佐間くんって、よく見るとイケメンだよね」 「は? 何それ」  煽てたって何も出ないぞ! 千円でいいですか? 今月厳しくて。  動揺を必死で隠そうとする俺に、莉央は「ここに座って」と自分の隣を示した。 「なんで?」 「羽佐間くんの声を近くで聞きたいの……」  莉央は恥ずかしそうにチラチラとこっちを上目遣いで見てくる。  おいおいおいおい。ザ・ハニートラップだな!  こんなみえみえの罠にこの俺が引っかかるわけないだろう! 「座って」 「はい」  座りました。何やってんの、俺。脳内に手塚莉央専用コントローラーで動く装置でも組み込まれてるの? 「やっぱり羽佐間くん、雰囲気似てる。『憂鬱な黒猫』に……」  莉央がベンチに座った俺の全身を舐め回すように見ている。  そんなに見ないで! ボロが出る!   「それじゃあ一曲歌ってもらっていい?」  絶対に嫌だ!!!
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