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……13分後。
魂を込めて渾身の力でJバラードを3曲フルで歌った俺に、莉央が言った。
「なんか違うなあ。『憂鬱な黒猫』はこんなに下手じゃないっていうか」
「判定遅くない⁉︎」
俺は1曲目のAパートでもう「やべ、外れてる!」って思ってたよ?
今のツッコミで喉も潰れたし。
あと、シンプルに下手って言われるの傷つくんですが。
どうせ俺は潤とは違って歌が下手だよ。
昔からそう言われ慣れてきたし、自分でも自覚はある。だけど、莉央に褒められたくて頑張ったのに。
ベンチの上でがっくりと首を垂れ、俺は言った。
「残念だけど、俺は『憂鬱な黒猫』じゃないよ」
「うーん。残念。声は似てたのにな」
「ただの他人の空似。だいたいさ、この辺りに住んでるって情報も怪しいよ? こんな公園、日本中にいくらでもあるんだから。それだけであんな有名人が近くにいるとか、俺だと疑うとか、そんな偶然あるわけが」
「あ! 羽佐間くんって、もしかしてお兄さんいる?」
俺は思わず莉央を睨みつけた。
「いい加減にしろって言ってるんだけど! これ以上は手塚のわがままに付き合ってらんないから!」
ふらつく足でベンチから立ち上がった。
魂が削られすぎて足にきている。怒鳴ってしまった後悔とか、兄貴への罪悪感とか、いろんな感情がうわっとやってきて、どうしたらいいか分からない。
とにかく、逃げるか。
走り出そうとしたその時だ。
「待って! ごめんね、羽佐間くん!」
莉央の可愛い声がした。
「私が悪かったから……戻ってきて!」
「はい」
どうなってんの、俺の足。勝手にUターンすな。
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