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「『憂鬱な黒猫』を探しているのはね、私じゃなくて……お姉ちゃんなの」
元通りの位置に収まった俺に、莉央は事情を打ち明けてくれた。
「お姉ちゃんが大学生になってから半年ぐらいの時、SNSで繋がっていた友達と些細なことで喧嘩になっちゃって、友達同士で繋がっているダイレクトメールにお姉ちゃんの悪口が回されたの。あの子は私のコメントにだけいいねしてくれないとか、傷つけたのに謝らないとか、コメントがあざといとか、絵文字がウザいとか。散々言われて、お姉ちゃん……心を病んじゃって」
「うわ……やだな、そういうの」
「うん。それで、夜も眠れなくなって、精神科の病院に通い出して……」
莉央のしゅんとした横顔を見ているだけで俺も辛くなった。
「相当辛かったんだね」
「うん。でも……」
莉央は自分のスマホを見つめて言った。
「睡眠薬を飲んでも眠れなかったお姉ちゃんを救ってくれたのは、『憂鬱な黒猫』の歌声だったんだ」
莉央のスマホから潤の声が流れる。
『どこかで俺の声を聞いている誰かへ。
今、君はどこにいますか?
君が今夜も安らかな眠りにつけることを祈って、憂鬱な黒猫は今日も君のために歌うよ。
……おやすみなさい』
歯の浮くようなセリフの後で流れ出した歌は、悔しいけれどプロ並みの上手さで、俺の歌とは比べものにならなかった。切ないメロディーが心にまで響くようだ。
「お姉ちゃんは『憂鬱な黒猫』の歌を聞き始めてから自然と眠れるようになったって喜んでたんだ」
こんな配信始めた時は何やってんだよと思ったけど、潤はこうやって誰かを救う仕事をしていたんだな。
やっぱり兄貴はかっこいい。
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