悩める花凛ちゃん#lucid

5/8
前へ
/323ページ
次へ
「クスリマスのことかの?」 「なるほど!クリクリマスなぁ、花凛ちゃんもお年頃だから」 苦いのか甘いのかわからないクリスマスに、花凛ちゃんは思わず吹き出した。 おじいちゃん、おばあちゃんは横文字が苦手なのだ。 「ウフフ。おじいちゃん、おばあちゃんとお話しているとぉ、花凛は元気がでるかな~」 鈍感な恵介の事はもう放っておいて、授業に集中する花凛ちゃんだった。 放課後、スマートフォンに恵介からメールが届いていた。 《花凛、急な出張!クリスマスには戻るよ》 今日は12月23日、明日のイブは学園の終業式だ。 「つまりイブは帰れなくて、クリスマス当日に帰ってくる……もう、いいや」 甘いクリスマスイブなど、とうに諦めていた。 今年も花凛ちゃんの部屋で、地味ながらもしみじみとクリスマスを過ごす──そんな底辺のクリスマスイブさえも叶わないのだ。 あからさまにションボリとスマホ画面を見ているから、先生達もなんて声をかけていいかわからない。 ──恵介がまたやらかした。 ──まさか、ドタキャン? ──長山先生、痛々しい……。 「あれっ?どうしたのです、長山先生。明日は終業式でイブですね~1年などあっという間──」 空気を読まない山崎は、黒木先生に絞め技を掛けられ白目を剥いた。 「みなさん……気を遣っていただかなくても、花凛は大丈夫ですから」 ──長山先生の語尾が伸びない!これはかなり怒っているかも! 無表情な花凛ちゃん、無表情に挨拶し、無表情に帰って行った。 どこを歩いてもクリスマス一色で、カップルばかり目に入る。 気の早い事だ。 「予約したケーキ、一人で食べちゃおうかな」 クリスマスチキンにシチュー、ささやかなオードブルと恵介が好きなワイン。 なんだかんだ言いながら、ウキウキと準備してしまう。
/323ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加