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「先生……殿じい──森本さんってさ、小学校の同級生なんだ」
「そうだったのですか!小学校の同級生と、再び姥桜学園で学べるなんて、凄い奇跡ですね?」
「……ほんとに、そうだね。なのに私……なんで覚えてないフリをしたんだろう。冷たく突き離したんだろう……」
室井の握りしめた両手に、ケチャップが付いている。
馬鹿食い、ヤケ食いの跡だ。
「スタートを間違ってしまって……今更って感じ……」
「それが何だと言うのです。スタートなど間違ってもかまわないのですよ?僕なんて、スタートを間違い、躓き、コケてしまってからの──今ですから!」
熱血教師を目指し、生徒達にどん底まで叩き落された山崎は、姥桜学園で真の熱血教師に生まれ変わった。
山崎の教師生活のスタートなどは最低最悪で、よく今に辿り着けたと感心するほどだ。
「プッ!そうだったね!山崎先生のスタートって最悪だったよね」
「室井さんは室井さんらしく。あなたなら、僕よりも遥かに早く上手く修正できるでしょうから」
夕暮れの風は少し冷たく、室井の舞い上がっている心を冷ましてくれる。
「いつからだって、やり直せるのです。勇気を出して室井さん」
山崎の励ましを素直に受け取れる自分がいる。
このまま姥桜学園に通えなくなるのは嫌だ。
殿じいに、殿じいと呼べないのも自分らしくない。
「ありがと、山崎先生。明日は学園に行くね!」
「はい。そして懇談もよろしくおねがいします」
半分に割ったホイップクリームパンを山崎と一緒に頬張る。
甘い、甘いホイップクリームは、初恋の味とはかけ離れていたけれど、室井の心にはやけにしみる甘さだった。
山崎と別れて、家路を急ぐ。
摂取してしまった余計なカロリーを消費する為に、小走りがランニングになったのは言うまでもない。
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