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あたたかい部屋なのに、恵介はトナカイの衣装を脱がない。
お尻の辺りをモゾモゾさせながら。
「恵ちゃん、シチューをあたためるからトナカイ脱ぎなよ?」
「花凛!」
トナカイは慌てて花凛を捕まえる。
そしてぎこちなく、ひざまずいた。
「花凛、僕と結婚して下さい!」
差し出された手のひらには、輝くリングが乗っている。
V字ラインの真ん中に、青い石を囲むようにダイヤモンドが散りばめられている指輪。
「花凛の誕生石。きっと花凛を守ってくれると思って……」
花凛ちゃんは、指輪ごと恵介の手に自分の手を重ねた。
「バカ、バカ……守るのは恵ちゃんの役目でしょ?」
「じゃあ、結婚してくれるの?」
頷いた花凛ちゃんの大きな瞳から、大粒の涙が溢れ落ちた。
恵介が恐る恐る指輪をはめてくれている。
「似合うよ、やっぱりブルーにして正解だった!」
大口を叩いている恵介だが、ほんとはレッドトパーズにしようとしたのだが、予算の都合上、泣く泣く諦めた。
「恵ちゃん、ありがとう。大好きっ!」
人生最初で最後かもしれない恵介のサプライズは、どんな高級ホテルより、どんな高級レストランの食事よりも感動的で、一生忘れられない日となった。
キメる時は、キメる恵介。
のんびり屋で鈍感だが、花凛ちゃんへの愛はいつだってブレずにlucid(明快)だ。
「恵ちゃん、もうトナカイ脱ぎなよ」
「もう少し。花凛とクリスマス気分でいたいんだ」
飲んで食べて笑って泣いて。
大忙しのクリスマスだ。
「サンタさんって、いるんだね……」
先に酔いつぶれて眠ってしまった恵介に、毛布をかけながらそう思う。
花凛ちゃんのクリスマスプレゼントは、何故かトナカイの着ぐるみを着たサンタが運んできた。
「もう、恵ちゃんが隣にいてくれるだけでいいや……」
クリスマスの夜は、シンシンと冷え込んでいる。
が、花凛ちゃんと恵介はポカポカだった。
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