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「山崎先生、黒木先生、今年最後の体験滝修行の方々が出発しますよ?急いで下さい」
大荷物を背負った時任先生が、大声で叫びながら手を振っていた。
「寒い中ご苦労だな。行くぞ、山崎先生」
午後3時を過ぎると、山の気温はぐんぐん下がってくる。
一般参加の滝行は、それまでに終わらせなければならない。
「5人も参加者がいるなんて……凄いな」
「うち2名は地元の人で、毎年参加しているツワモノだが、後3名は若さ故の無鉄砲だな」
若い時にしか出来ない冬の滝行、根性だめしと金運上昇の為らしい。
21歳の冬、間もなくお正月というこの時期に、たまにいるらしいノリとイキオイの若者グループ。
「何が金運上昇だ。熱が上昇するだけだろうよ」
黒木先生の呟きに、思わず吹き出しそうになった山崎だが、顔も気持ちも引き締める。
夏合宿の時に、吉野が溺れかけたからだ。
「浅野さん……あの世で穏やかに過ごせているかな……」
善光寺本堂では、午後の読経が始まっていた。
おとぼけキャラの大秀が、力強くお経を唱えると、隣で文秀や南秀が護摩を焚く。
参拝客も足を止めしばし聞き入ると、自然と手を合わせていた。
シャランシャランと鈴が鳴り、時折護摩木が爆ぜる。
ざわつく境内が静かになる瞬間だ。
理事長も手を合わせていた。
1年、全力で駆け抜けてきた。
それでもまだ足りない。
理想と現実は乖離していて、手が届きそうで届かない。
6年前の理事長なら、焦ってただ突っ走るだけだったかもしれないが、近年ようやく落着きが出てきた。
できないなら別の方法を、今はできないなら時間をかけてと、じっくり攻める。
それが出来るようになったのは、頼もしい先生達がいてくれるからだ。
「結局、一人で出来る事などしれている。仲間は大切です」
普通高校よりもスケジュール的にはキツイ姥桜学園なのに、文句どころか率先して教壇に立ち、教え導き、自分さえも楽しめる姥桜学園の先生達。
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