向う側の初恋#longing

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誰もいない朝の職員室に、山崎は少し俯く。 朝が早い丸山先生はいつも一番乗りで、美味しそうにお茶を啜っていた。 山崎が挨拶すると、季節にマッチしたあたたかさのお茶を必ず淹れてくれた。 丸山先生が使っていたポットをそっと撫でる。 その手をガシッと掴まれた。 驚きと期待感で顔を上げると、黒木先生がニヤリと笑っていた。 「ちょうど飲みたいと思ってた。ごちそうになるぞ、山崎先生。温めで頼む、丁寧にな」 「な!自分で淹れればいいでしょう?僕は……」 「情けないな。お茶の淹れ方もわからないとは。貰い手がないはずだ」 黒木先生にイジられているうちに、時任先生やラシード先生もやって来て、自分のお茶の好みを囁いて行く。 最後の永慶先生は白湯を所望のようだ。 ちなみに長山先生は水しか飲まない。 山崎は文句を言いながらもポットを手に取った。 丸山先生のクリームパンのような手を思い出しながら。 「皆さん、おはようございます」 理事長が爽やかに現れ、職員会議の始まりだ。 「共学になったばかりです、色々と問題はあるでしょうが、落ち着いて勉学に励めるように導いてあげて欲しい」 今年度は、ひとクラスに3名づつの男性生徒が加わった。 50組の薔薇、桔梗は比較的穏やかに受け入れられた。 70組の曼珠沙華も、和気あいあいだったと長山先生は報告していた。 問題は60組の水仙とアマリリスだ。 黒木先生のアマリリスは、激しい反発と反抗。 「男はいらない」を合言葉に、自己紹介も出来なかったくらい荒れた。 「年代的なものもあるかもしれないが、時間がかかるだろうな……」 ラシード先生の水仙は大歓迎だったのだが、徐々に不穏な空気になった。 漢生徒の中に、若々しいイケジジイがいたのだ。 そのイケジジイの関心をひきたい水仙乙女達。 「大奥とはこのような状態だったのでしょうか……皆、目が……獲物を狙う蛇のようになっています。私の日本語、だいじょうぶですか?」
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