向う側の初恋#longing

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理事長は眉間を揉むと、気を取り直したように笑顔を向ける。 もちろん、白い仮面でわからないが。 「最初だけです。姥桜学園の乙女達は最初は浮足立つけれども、必ず落ち着きを取り戻します。私は信じている」 自分に言い聞かせているような理事長だが、これくらいは想定内だ。 ここは姥桜学園。 一筋縄ではいかないのが日常だから。 永慶先生の地獄に仏クラスには、新入生は入っていない。 今いる幽霊生徒達を成仏させるのが一番の課題だからだ。 「なんだか大変そう。花凛のクラスは落ち着いてますよ~。性別なんて越えちゃってますぅ〜。おじいちゃん達、おばあちゃんに叱られながらも頑張る姿にキュンかな~?」 あくまで今年度も、甘ったるい喋り方を貫き通す長山先生は、自慢のまつ毛をバッサバッサさせながら職員室を出て行く。 「私の大切なクラスを大奥化などさせません。柔軟に、軽やかに生きていくのが今、まさに風の時代なのです!私の時代感、間違っていないですか?」 ラシード先生も自分に言い聞かせている。 吹く風が爽やかならいいのだが。 花壇に浮かび上がった丸山先生の顔は、困ったように揺れていた。 ホームルームを終えた薔薇クラスは、それぞれの選択科目に分かれる。 教室を移動しながら、ひとり浮かない顔は室井だ。 殿じいにはまだ声をかけていない。 声をかけるタイミングを、完全に見失っていた。 幸い薔薇漢3人組は、今から健康診断らしい。 談笑しながら保健室に向ったのは確認済みだ。 「皆に囲まれていたら近づけないし……かと言って野郎3人でかたまっていても近づき難い……ひとり……余計に気まずい……」 元来室井真姫はサバサバした性格で、破壊神の寺崎と仲良しだ。 前田けいとも馬が合う。 反対に、女子力の高い西や卒業した赤井などは苦手だった。
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