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深紅の薔薇クラスはポジティブ、アクティブ、コミカルで、室井にとって居心地の良いクラスだ。
合う合わないはあるが、嫌いな人間がいないのがありがたい。
ポンと肩を叩かれ振り返ると、眠そうな寺崎が立っていた。
「室井さん、次は時任先生の『スキンケアは、るりにお任せ』でしょ?」
「うん、麗花も?てか、目が開いてないよ?練習きついの?」
ママさんバレー『トワイライトエクスプレス』のエースアタッカーである寺崎は、中央体育館で夕方から練習がある。
破壊神の名に恥じぬよう、日夜練習しているのだ。
「あ〜眠い。でも時任先生の授業は大好きだから頑張るよ。お肌の調子もアゲて行こー!破壊神の名にかけて」
「もー何それ!」
クスクスと肩をぶつけ合いながら、長い廊下を歩いて行く。
殿じいの事は忘れて。
幸い、選択授業が殿じいと被らなかった室井は、油断していた。
思いきり油断していた。
休み時間、一番後の席で寺崎と馬鹿笑いしていた室井の所に、殿じいがやって来たのだった。
「あの……神谷真姫さんではないですか?」
一瞬で教室が静まり返る。
森本拓馬は物静かで、薔薇漢3人組の中では無口な漢だったから。
薔薇乙女達の目が、好奇心にキラキラ──いや、ギラギラしだした。
「え、ええ……」
「やっぱり!!……小学生の頃同じクラスだった森本……殿じいです!覚えてませんか?」
──殿じい?覚えてる~懐かしいね!元気で何より〜アハアハ。
そう言えば良かった。
何を意識しすぎたのか、慌ててしまったのか、口から出た言葉は。
「ごめん、覚えてない」
目の前の殿じいはキュッと目を瞑り、寂しげに微笑んだ。
殿じいのおでこに、あの日の花びらが透けて見えていたのに。
「そうですか……失礼しました」
顔を背けた室井は、泣きそうになる。
こんな悲しい再会には、したくなかったのにと。
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