向う側の初恋#longing

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この日から、明らかに室井の元気がなくなった。 殿じいは、目が合えばニコッと笑うし挨拶もする。 小学校時代の想い出など一切語らず、他の薔薇乙女達と同じく室井に接する。 それがまた悲しくて、余計に素直になれない。 堪えきれず、とうとう室井は姥桜学園を休んでしまった。 簡単に言えば、考えすぎて知恵熱がでたのだ。 なんとなくダルい身体をソファーに沈めて、夕方までウトウトと微睡んだ。 目が覚めると当たり前のように知恵熱は下がり、猛烈な空腹感に襲われる。 殿じいをひたすら思っていたあの頃も、ライバルが多くて悩んだり、殿じいの気持ちがわからなくて悩んだりで、晩ごはんが喉を通らない日もあった。 今では、散々悩んでもお腹は空く。 「歳を取るって、ある意味ピュアを失う事かもね」 まぁいいかと、すっぴんをマスクで隠しコンビニへと向かえば、ますますお腹が騒がしくなる。 肉まんにフランクフルト、いつもは我慢するホイップクリームたっぷりの菓子パンを買い、コーヒーを飲みながら歩いた。 誰もいない公園のベンチで、肉まんを頬張る。 熱いうちにとフランクフルトも齧り、とうとうホイップクリームパンの袋にも手をかけた。 「室井さん!」 ビクッとして振り向けば、担任の山崎が手を振っている。 「山崎先生……なんでここに?」 「渡さなければならないプリントがありまして。いつも元気な室井さんが病欠なのも心配でしたし、大丈夫……そうですね?」 食べ散らかされた袋を、慌てて纏める室井の顔を心配そうに覗き込んだ山崎は、隣に座った。 目の前には、桜のトンネルが揺れている。 「クラスに何か問題でもありますか?」 優しく問いかけられ俯いてしまった。 問題は自分の意地っぱりな性格で、姥桜学園にも、深紅の薔薇クラスにも問題はない。
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