クロカゲ

「いったい、なんだったんだろう？」

　洋服をぬぎながら、さっきのできごとを考える。

　だってさ？

　あの時、たしかに『ニャー！』って声が聞こえたんだ。
　ブレーキだけじゃ間に合わないと、足を道路につけて止まろうとした。
　でも自転車の前タイヤが何かに乗り上げ、ガシャンと音を立てそのまま倒れた。ボクも下敷きになって転んだ。
　身体が痛かったけれど、すぐに自転車の下からはい出て辺りを見回す。
　道路の両側は家の塀がある。
　ボクがひいたならば、いるはずなのに。
　いない……、いない、いない、いない！
　前にも後ろにも右にも左にも。
　どこを見たって『猫』がいなかった。
　絶対にさっき、猫をひいてしまったって、そう思ったのに！