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「ユウタ、なーんにもいないわよ?」
お風呂のお湯をかきまぜながら、お母さんは首をかしげた。
「ウソじゃないんだよ、だってさっきはお湯の中から猫の化物がニャアアアって飛び出してきて」
「うん、でもね? どこにもいないの。疲れていたら見間違いをすることは大人だってあることよ?」
バスタオルにくるまったまま、しゃがみ込んで泣くボクの頭を、お母さんがなでる。
これじゃあ、まるでボクが、お母さんの気をひくためにウソをついたみたいじゃないか!
「ちゃんとハッキリ見たんだってば」
「うん、わかった、わかった。明日の朝、もう一度聞くね。ユウタは、きっとすごく疲れてるのよ、新学期が始まったばかりなのに、塾もあったんだし。さあ、パジャマに着替えて、歯をみがいて、今日はもう休みなさい。明日も学校があるんだから、用意して寝るのよ」
「もう、お母さんってば!」
洗面所に一人残されたボクは、あわててお風呂場の戸を閉めた。
あの黒い化け猫みたいなのが、お湯の中からまた飛び出してきそうな気がしたんだもん。
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