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「お前じゃ話んならんわ。役員クラス呼んでこんかい」
眞上卓志は正座しながら目線を上げた。ローテーブルを挟んだ対面には人工皮革の黒いソファがあり、ところどころ剥げた箇所が目立つ。ソファの中央に大股で座っているのは金山俊介。眉間に皺を寄せて眞上を睨んでいた。
「いえ、金山様の担当は私であり、責任は私にございます。私でお話を伺いま」
「聞いてんか、われ。お前じゃ話にならんねや。はよ社長呼んでこいや」
金山はソファに埋めていた身体を起こし、ローテーブルまで身を乗り出した。
眞上は金山の目を見たまま、微動だにしなかった。
昨年ちょうど同じ頃、眞上の後輩が静かに会社を辞めた。
「申し訳ないです、突然で」
そんな単純な言葉を残したからこそ、眞上は後輩がギリギリまで耐えていたのだと知った。
金山の怒声を聞きながら、それを眞上は思い起こしていた。
「ご要望には添えかねます。私が会社の代表としてここにおります」
金山はローテーブルに置かれたコーヒーカップを持ち上げ、叩きつけるようにまた置いた。ガラスの高い音が威圧をこめて鳴り、コーヒーが溢れた。
「ほだら、お前んとこの会社は客に迷惑かけといて、何もできませんだけ言いに来よたちゅうこっちゃな! ほな、ええわ。出るとこ出よか、なぁ?」
金山の声色が変わった。
眞上はこぼれたコーヒーをちらりと見た。天板は綺麗に片付けられていて染みるようなものは置いていない。それを確認して眞上は金山に視線を戻した。
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