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入学式から早一週間。
「あのう」
と、部室にやってきたのは、力士体型のおにぎりくんだった。
「相撲部なら別棟だよ」
陸が向かいの鉄筋コンクリートの箱を指す。
すると、おにぎりくんは一枚のコピー用紙を広げた。達筆な筆文字と墨絵が描かれた紙が窓からの春風になびいた。
「陸上部に入部させて下さい」
「そっか。勘違いしてごめんな。歓迎するよ。名前は」
「大。種目は投てきっす。中学から砲丸や円盤を投げてきたっす」
おにぎりくん改め、大は投てきが好きなのか、つぶらな瞳が輝いている。
「けっきょく、みんな種目はバラバラか」
健が陸上雑誌を眺めながらつぶやいた。
「そうだな。投てきの専門はいないし、監督やコーチもいないし、弱小だよ。それでもよければ」
「自分大丈夫っす。高校でも投てきやる人は少なかったし、基礎は教わってたし。みなさんはそれぞれ何を?」
「私、四年の陸は長距離、三年の健は跳躍。二年のイケメンの昴は短距離」
健は会釈だけして、雑誌に目を移した。
イケメンと紹介された昴も大をちらりと見て、マンガを読み続ける。
「本当にバラバラだな。そうだ、一致団結するためにリレー出場してみないか。ちょうど四人だしさ」
名案だろ? と、陸が得意げに部室を見渡した。
「いいですねぇ。昴様のバトンパス姿を拝見したいものです」
衛は妄想に浸り、目を細めた。
「あの人は?」
「初めまして。じいやは昴様の執事です。衛と申します」
陸に訊ねた大に、みずから名乗りでる衛。
「……ヒツジって、いるんっすね」
大は宇宙人と遭遇した人のように執事を見つめた。
「なあ、リレーってそんな簡単なもんじゃないだろ」
と、健はロッカーから他の陸上雑誌をとりだした。
「いまさらチームプレーするの? いままでどおり、個人競技だけでいいんじゃないの?」
と、昴も抗議しながら次の巻をめくる。
「昴は独りでもじゅうぶん速い。よって、練習すれば昴の速さのおかげで良い結果がでるかもしれない。だから、一ヶ月後の大会のリレーにエントリーしよう。
とりあえず4×100mでどうだ」
陸はウキウキしながらエントリー用紙に部長の権限で(勝手に)記入を始めた。
「え」
「マジでやるのかよ」
昴も健も読むことよりも、部長のやる気にあっけにとられた。
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