天使の腕

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「そら。これ君にあげるよ。私はこの子を天国に連れて行かなきゃならないのだけれど、天国には綺麗なものしか持っていけないんだ」  天使は今し方切り離した左腕を、いかにも汚さそうに俺に放った。それは放物線を描いて俺の腕に収まった。まだほんのりと温もりの残るその左腕を、俺はナイフと共に反射的に跳ね除ける。自分でその腕の持ち主を殺したくせに。腕なんかよりも、もっと大きいものを奪ったくせに。 「それは汚いからさ。人殺しの君にはお似合いなんじゃないかな」 「汚いって、何が……」  天使は死体の側から立ち上がって、ため息を吐き、放られた左腕を引きずりながら俺の眼前に持ってきた。その腕の後ろからひょこっと俺を覗き込んでいる。子供くらいの背丈の天使は、未だ腰を抜かしている俺にほんの少し屈んで目線を合わせてきた。その目は綺麗で、まんまるで、真っ直ぐ俺を見ていた。とても澄んだ、宝石のようなキラキラした目だった。その目を見るなり、そこに映る人殺しの俺は確かに汚いだろうと、納得してしまった。 「腕の傷、見えるでしょ。この子が自分で傷つけた跡だね。死にたかったのかなあ?」 「え? ああ。口癖のように言ってたよ。死にたい、って」
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