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「ただいま」
「遅かったじゃない、小春。早く準備なさい」
「……はい」
「全く、毎年のことだって言うのにこの子ときたら……春渡はあんなに立派なのに」
六月の末、神社では夏越しの大祓と言われるお祭りがある。これは全国の神社で毎年同じ日に執り行われるお祭りで、半年ごとに知らずに身についた罪穢れを祓うというものだ。六月末のものを夏越の大祓、十二月末のものを年越し大祓と言い、古くから親しまれている。
当然、大きなお祭りのある時期、神社内は忙しくなり私は当たり前のように駆り出される。私の都合は基本的に後回しなのだ。
春渡、と言うのは私の双子の弟だ。同じ双子だと言うのに、春渡は全体的に私よりも出来が良かった。そもそも神社の跡取りが双子だなんて、不吉もいいところだと言って、女である私は余計に忌み嫌われ育った。
書道や剣道、お琴や舞、全部弟の方が頭ひとつふたつ抜き出ていた。しかし、弓道に関しては私が唯一勝てたものだったのだが、今度はそれが一周回って面白くないのだろう。褒めるどころか弟より秀でるなどと、と、練習をさせないための陰湿な嫌がらせを幾度となく経験してきた。
もう何年もこのような生活を送っているが、そう言ったものを心穏やかに流せるような性分ではなかった。自室に戻って洋服を放り、バッグを叩きつけようと振り上げたが、大きな音を立てれば面倒な言葉が飛んでくる。グッと堪えて草臥れた人形のように座り込んだ。
「こんなだから。いつまで経っても垢抜けないままなのよ」
ファッションに疎いのも当たり前だ。帰宅すればこうして装束を着て家の手伝いをし、家族目を盗んで今度は道着に着替えて弓を引く。髪の毛も、メイクも、ネイルも、何もかも、私の生き方そうさせてはくれないのだ。そうやって十分かそこら項垂れて、母さんから催促のないことをいいことに急いで巫女装束に着替え、仕事の手伝いに向かった。
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