序章

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 スロードは深沈な足取りで指定の席に着いた。 両隣には非凡さの滲み出た、錚々たる顔ぶれが並ぶ。 一様な表情の強張りから甚だしい緊張が読み取れた。  正面に向き直ったスロードは至って平常心だった。 それもそのはず、彼の胸中は迫り来る難問への好奇心と、 対敵を打ち負かす自信で満ち溢れていた。 特段精神を集中領域に落とさずとも、 普段と変わらない速度で前頭葉を使役するだけで、 あらゆる難問を成す糸が瞬時に(ほど)かれていくのだから。    試験開始5分前。ステンレス製の扉が膠着する気流を押し退けた。 課題制作者であり、試験官をも務める教頭が威厳をもって入室する。 「えー諸君、卒業おめでとう。いや、まだこの言葉を贈るのは気が早いかな」 ささやかな冗談で冷えた空気は二度の咳払いで一変した。 「早速、課題を発表する。学園生活最後に挑んでもらうのは……」 冷や汗を垂らし、固唾を呑む受験者たち。 「"球形不完全十二色相環"だ。恐らく初めて聞くだろうが、  実習を真面目に取り組んでいれば、簡単に解けるはずだぞ」 教卓の上に薄ら笑いが浮かんだ。 この発言が全く以て信用に値しないことをスロードは十二分に理解していた。
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