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結果は変わりはしない。貴久子は殺されたのだ。それは圭も早々に気付いていた。
礼子に屋上から突き落とされたにせよ、男達の手から逃れようとして頭を強打したにせよ、結果は同じ、殺されたのである。
今、心の底から湧き上がる恐怖は、経過を知り得たからこその恐怖であった。
意識を取り戻した時、貴久子はどんな思いだっただろう。今いる場所、目の前にいる男達との関係。そんなことを考える暇もなく、体が放り出され、絶望の淵に追い遣られたのだ。
地面に到達するまでの間、どんな思いが心を巡ったであろうか。
悪人であったとしても、残酷な状況。罪のない貴久子の無念を考えると、恐怖と同時に哀しみが心を占領した。
美沙子が知らずにいたのは、幸いであったかもしれない。
礼子は笑い続けた。
隆彦の、貴久子への配慮の足りぬ言葉に激高しかけた隼人も、礼子に向ける視線は驚愕に満ちていた。
「貴久子ちゃんがあんたになにをしたってんだ?」
新聞記者として修羅場をくぐって来たであろう勇一郎が、感情を殺した声で問う。
礼子は勇一郎を一瞥すると、見下したような表情を見せた。
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