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目の端で、圭が髪を手で梳くのが見えた。
右手の指を揃えて、前髪を後ろに流したのだが、その仕草が少女染みていて、違和感を憶えた。
圭らしからぬ仕草であった。
そうして、つり上がり気味の切れ長な目を、いつになく柔らかな、優しく見える風に見開き、上唇を下唇に被せた状態でにこりと笑った。
その姿はとても可愛らしかったけれど、普段の圭を知る隼人は、背筋が寒く感じさえした。
圭が少女の振りをしているように見えたのだ。
少女に間違えられると、目が更につり上がるほどの怒りを見せる圭が、どういう理由で少女の振りをするのか。分かりかねるだけに怖い。
圭の笑顔を見て、ざわめきが更に高まる。
礼子は目に、涙を溢れさせていた。
「白梅の君!」
踵の高い洋靴で床を高く鳴らしながら、礼子は短い距離を駆けた。
「いいえ、違うわ……」
隼人は全く視界に入っていないらしく、腰を屈めて圭を真っ直ぐ見ると、淋しげに呟いた。
「麻上……圭一様?」
相変わらず少女の表情で、圭は首を傾げるような角度で、頷いて見せた。
礼子の頬に、涙が幾粒も零れた。
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