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麻上……白梅の君……美沙子様……同じ言葉が違う人間の口から発せられる。
白梅の君は初耳だが、美沙子は、圭の母親だと理解していた。
口々に発しているのは、美沙子と同じ年頃の婦人ばかり。恐らく女学校時代の美沙子の呼び名だったのだろうと見当をつけた。
少女はとかく、夢見がちな呼び名を付けるのだと、姪の幸子から聞いていたのだ。
圭を見る限りその美しさは大輪のバラや蘭ではなく、白梅の方がふさわしく思えた。可憐で無垢。しかしどこか凛とした美しさがある。
礼子は白いハンカチで涙を拭うと、圭を見つめた。
「白梅の君によく似ておいでですわね。
なんという偶然なのかしら。この音楽会は白梅の君のお好きだった曲を選びましたの。
あの方を偲ぶ方達を呼んでおりますのよ。
その会に、ご子息の圭一様がお出で下さるだなんて」
「母の導きなのでしょうか。
長瀬紀夫様の代理でいらっしゃる隼人さんに、図々しくもついて参りました。
しかし、招待状が一枚しかなく、私はおいとましようと思っていたのですが」
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