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声も、心なしか高い。話し方も優し気で、普段のやや素っ気無い態度とは全く違っていた。
紀夫達の前では子供っぽい態度になるが、今はそうではなく、淑やかな優等生の少女。と言う雰囲気であった。
「まぁ、何を仰いますの。ぜひ、ご一緒に鑑賞下さいませ。お席はすぐに用意させますわ。
え、と、長瀬商事の……末のご子息でしたかしら?」
隼人は愛想笑いを浮かべつつ、深々と頭を下げた。
隼人ほど特徴のある人間をうろ覚え程度にしか覚えていない事実に、驚きを隠せなかった。人を覚えるのが苦手が人間であっても、隼人だけは覚えている。
にも関わらず、礼子の態度は見事なものである。男嫌いで有名な人ではあるが、ここまで徹底していると、感心する以外にない。
「お二人はどういうご関係ですかしら?」
席を一つ増やすようにと、近くにいた社員らしい男に言いつけると、礼子は不思議そうな表情を二人に向けた。
「長瀬さんは私の雇い主です」
間違いではなかろうが、今までこのような言い方をしたことはなかった。一番しっくりくる言い方は、隼人の助手。であろうか。
「雇い主?」
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