37人が本棚に入れています
本棚に追加
「瀬戸様は新城氏との婚約を破棄するつもりだったそうですが、夫人がどうしてもいやだと言い張って、お嫁に行ったと聞いています。
しかし、お二人はどう見ても、仲睦まじい夫婦には見えません。母に執着していたことからも、殿方に興味があるとは思いかねます。
夫人にはどうしても嫁がなければならない事情があったのでしょう。新城氏が自暴自棄になった時、ばらされては困るような真実が。口止めするためには、多額の持参金を持って嫁がなければならなかった。
資産家の娘だからと言って、大金を右から左にできるものではありませんからね。
瀬戸のように古くからの商家となれば、家政を担う表の人達が家計を握っているものでしょう。主であろうと自由にはできないと聞きますし」
突然隆彦が動き出すと、マントルピースに置いてあった金属製らしい置時計を掴み、圭に向かって振り被った。
圭は体を沈めると、右膝をつき、左手で隆彦の膝を強く突いた。
力の弱い圭にしてみると一番楽なのは蹴り飛ばすことなのだが、傷の痛みでどうにも無理なので、万一の為にと隼人が教えてくれたのである。
狙い通り隆彦はよろけ、勢い良くすっ転んだ。
最初のコメントを投稿しよう!