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「なんてことを!!」
非難は圭に対してではなく、良人、隆彦に向けられたものであった。
礼子は隆彦に近付くと、勢い良く頬を引っ叩いた。欠片の迷いもない行動は、主人が奴隷に対して取る態度であった。
「そうそう、戸川男爵家の二の姫ですが、財閥系の男爵家のご子息との婚約が調いそうですよ」
礼子の目が、圭を捉えた。
「なぜ、そのことを……」
「戸川男爵家は私の親戚ですよ。今まで音信不通だったのに突然、求婚を始めればいぶかしむのは当然です。
連絡がありました。私は存じ上げませんので、無視して下さいと申し上げました」
真実は逆で、圭の方から電話を入れたのである。
戸川男爵は新城家からの使者を信じ切っており、話を進めていた財閥系の男爵家との話を白紙に戻そうとしていたらしい。知惠のお陰で間に合った。
掃き出し窓の鍵を外し、開く。
冷たい風が入り込んで来たと同時に、圭はポケットから白いハンカチを取り出し広げると、風に載せて放り出した。
「ハンカチが……」
礼子がハンカチを追ってベランダに駆け出す。
しかし間に合わず、ハンカチは庭へと流されて消えて行った。
「白梅の君の……ハンカチが……」
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