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振り向いた礼子は、鬼の形相で圭に向かって乱暴に歩み寄ると、両手を首目掛けて伸ばしてきた。
てっきり引っ叩かれるのだと思っていた圭は、礼子の殺意を感じ取ると同時に、手首を戒めた。
しかし、勇一郎の言う通り、力の差は互角である。礼子は婦人にしては大柄で、気の強さは筋金入り。死に物狂いの勢いは、圭を恐怖せしめた。
加えて、隆彦が礼子に加勢すれば圭に勝ち目はない。
「今すぐ、戸川男爵に電話なさい!
姫君を……早く……白梅の君を……私の……私のもの……」
既に本人にも何を言っているのか理解できていまい。
人払いされていたはずの部屋に、男が二人飛び込んで来た。気を取られて油断した礼子の手を突き放す。
高い洋靴を履いていた礼子は、よろめくと床に倒れ込んだ。
「どういう状況だ? こりゃ」
圭はポケットから再びハンカチを取り出した。
「さっき投げ出したのは、刺繍のないハンカチです。母の形見を手放すわけがないでしょう。お二人にこの屋敷に入って来て頂く為の、合図でした。
新城氏を警戒していたのですが、まさか、夫人にまで殺されそうになるとは予想外でした」
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