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「バカな男。
あの女は気を失っていただけで、屋上から落とそうと体を持ち上げた時、声が聞こえたのですって。
この男は驚いて、慌ててあの女を放り出した。落ちて行く女の指が動いているのが見えたのだそうですわ。
愚かな男だけれど、一つだけ感謝しているわ。私から白梅の君を奪おうとしたあの、汚らわしい女にふさわしい死を与えたことだけは……」
圭は初めて、美沙子の感じていた恐怖を理解できた気がした。
美沙子は女学生当時、不本意ながら誰よりも礼子に近い場所にいた。そうして、誰も知らない礼子の負の部分を見、心に、肌に感じていたに違いないのだ。
どんなに拒絶しようと自分への執着を失わず、隠そうともしない礼子を嫌悪しながらも、完全な拒絶をしてしまえば、自分の周りの人間が危険な目に遭うのではなかろうかとの恐怖と闘っていた。
今まで圭は、日記を読み、礼子と関り、美沙子の気持ちを理解していたつもりになっていたが、間違いであった。
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