恐怖

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 「貴久子様の死から五日後、管理人が屋上から飛び降りたということになっております。これも、真実は違いますね?  貴久子様のお持ちであったであろう荷物が消えています。貴方は管理人に始末を任せた。しかし管理人は貴方を裏切った。  管理人の持ち物の中から、女物のハンカチが見つかっております。どのようなハンカチなのかは分かりませんが、何年か前、母の持つ私のハンカチを見て、恐怖の表情を見せた貴方を思い出したのです。  念の為に夫人にも見せはしましたが、呪詛のような言葉を吐かれたばかりです。  刺繍を施したハンカチは、親しい人にのみ贈った物ですから、夫人はお持ちではない。女学生の頃からずっと、ハンカチを持つ人間を妬んでいたのでしょう。  勿論貴久子様もお持ちでした。  それが、西洋軒で私が持っていた物と同じ、空色の絹糸でKAの頭文字を刺し、四つ葉のクローバーの模様を合わせたハンカチです。  貴方は貴久子様のハンカチを見せられ、脅迫されたのですね? 何しろ最終的に手を下したのは貴方ですからね。きっかけを作ったのが自分とは言え。  貴方は管理人を屋上に誘い出し、突き落とした」
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