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礼子はふてぶてしい笑みを浮かべながら、ゆっくりと立ち上がった。
挫いたらしく右足を庇い、時折眉をひそめながらも、ゆっくりと圭に近付こうと足を引き摺る。
「違いますわ。白梅の君は甦るのです。今度こそ私だけのものになるために」
「貴方は狂っている……」
「圭一様だって白梅の君にお会いしたいのでしょう?
私達の願いは同じ……さぁ、今すぐ戸川男爵に……」
「違いますよ」
圭は背広の内ポケットから取り出した折り畳み式のナイフを広げる。
「私の願いは、母を後悔から解放することです。貴女のしつこい執念から逃れるための道を作ることです。
狂った貴女から母を奪うことは無理だとわかりましたので……」
ナイフの刃を圭は、自らの首にあてがった。
「何をなさるの!!」
「母はこの世に未練を持ったまま留まり続ける……貴女のせいで……。ならば私がこの世から消え去れば良い。
貴女の狂った欲望を奪い、私は母をあの世に見送り、自ら命を絶った罰として地獄に落ちるまでです」
圭は首を傾げるような仕草で礼子に向かって笑むと、目を閉じた。
ナイフを握る左手に右手を添えると、礼子の金属質な悲鳴が上がった。
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