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までは良かったのだが、会場で招待状を見せると、演奏家らしいドレス姿の婦人は表情を曇らせた。
「お席が決まっておりますので、招待状一枚でお一人しか入れませんの」
言われて確認すると、確かにそう書かれている。
「それでは私は、近くにあったカフェにおります」
圭は素直に引こうとしたのだが、それはそれで心配だった。
とは言え、一緒に帰るわけにもいくまい。少なくとも紀夫の代わりとして挨拶くらいはしておかなければならない。
周りがザワつき始めた。
三十代半ばと思われる婦人を中心に、隼人、いや圭を見て、驚きの表情を見せている。
「どうなさいましたの?」
朱色の細身のドレスの裾を閃かせながら、婦人がこちらに近づいて来る。
「礼子様、あの方……」
新城礼子だった。婦人にしては長身で、ロングドレスがマヌカンのごとく様になっている。
礼子は、婦人の指し示す方向に視線を向け、圭を捉えると、驚愕の表情を見せた。
幽霊でも見たような驚きであり、その中に、喜びと悲しみを見たような気がした。
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