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不器用で人付き合いが下手な私にとって風沢は眩しすぎた。あと認めてしまうが、嫉妬だ。死に物狂いで頑張っている私の隣で、涼しい顔をしながら契約を取ってくるあいつが、この世で一番苦手な男だった。
私と全く違う世界に生きている、そんな風に思っている。きっと明るい家族がいて、友達がたくさんいて、人望も厚くて人生楽しくてしょうがないっていう人なんだろう。
会社で愛想のない、『こおりのさん』なんて裏で呼ばれている私なんて同じ人間とは思えない。
ちなみにこおりのさん、とは、私の本名……水野七海と、愛想がない態度から来ている。『水』より『氷』の方が似合ってるよね、と誰かが言い出したらしい。それでコソコソと私をみんなそうやって呼んでいるというわけだ。
それを咎めることも、怒ることもするつもりはなかった。
その通りだと思うし、自分が本当の名前で呼ばれないことには慣れっこだった。
「こお……えーっと水野さん、これお願いできる?」
ニコニコしながら仕事を押し付けようと近づいてきた上司に、私は口角を上げることもしなかった。首だけ動かし、それを受け取る。一つに縛った長い黒髪が揺れた。
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