一匹ぼっちのイヌシシ

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一匹ぼっちのイヌシシ

 冷たい雨が降り出し、一匹の子供のイヌシシは、帰り道を急いでいた。巣に戻るのだ。  イヌシシというのは、イヌとシシ(獅子(ライオン))をかけた名前で、単に(たてがみ)を持つイヌのことを言う。  戦争が始まってから、その毛皮を使うために、イヌシシ狩りが盛んになった。そのせいで、今やイヌシシは絶滅の危機にある。この子供のイヌシシの両親も、イヌシシ狩りでやられてしまっていた。  この子イヌシシは、人間と心を通わせることができた。  そして、巣に戻ろうとしたときに、幼い少女を見つけた。  少女は、子イヌシシの巣の近くにある木にもたれた。だが、寝るわけではないらしい。  子イヌシシは、思い切って少女に心のなかで語りかけてみた。 (ねえ、どうしたの)  少女は、目を見開く。 (人間と喋れるの?) (そうだよ。……キミの名前は?) (わたし……? わたしは――アメリア。あなたの名前は?) (ぼくの名前は……ない。イヌシシに名前はないんだ……)  2人の間に、気まずい沈黙が落ちる。 (それじゃあ、わたしがつけてあげる。……モモ。モモはどう?) (なんで?)  当然の疑問だった。 (この木は、モモの木だから) (いいね、それ。気に入ったよ!)  そして――子イヌシシは、今日からモモになった。  一人ぼっちと一匹ぼっちは、今日から友だちになった。
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