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Extra sound. 03
「ただいま帰りました!」
玄関が開いたかと思えばすぐパタパタと乾いた足音が聞こえ、それに俺が振り向いたとほぼ同時にリビングの扉から菫が姿を現す。
今日はまた懲りもせずファッション誌の取材だと言って、朝に弱い菫は土曜の早朝からふらふらと寝ぼけ眼をこすっていたが、元気に帰宅してきて何よりだ。
「おかえり、結構遅かったな」
「撮影が一緒だったモデルの人達とお喋りで盛り上がっちゃって」
「ファッション誌、嫌じゃなかったのか」
「んー、まあ苦手ですけど」
懇意にしてる編集さんとの仕事に絞ったので、と首に巻いたストールをほどきながら、普段よりも華やかな化粧をした菫が俺の隣に腰を降ろした。
ラグの上に胡坐を掻いて仕事をしていた俺は一旦パソコンのデータを一時保存してから、そわそわと落ち着きなく話し掛けたがっている菫のほうに視線を向けた。
「お仕事中ですか?」
「まあな、でも別に保存したからいいぜ、何?」
「これを現場でいただきまして」
手に持った細長い紙袋から取り出されたのは赤ワインだった。シンプルな白のラベルに金字で走り書きされている文字は解読できないが、時期的にピンときた。
「ボジョレーか?」
「はい、この前解禁したらしくて」
「いちいち覚えてねえけどもうそんな時期か」
「赤ワインお好きですか?」
上機嫌にラベルの裏側を読み込んでいる菫に聞かれて頷く。昔から酒は好きだ。舌が肥えているわけではないので酒の味まではわからないが、結構飲める口だと思ってる。
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