Intermission

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「菫の借金っていくらだ?」 突然家に来て、開口一番なんだよ。 相変わらず配慮の欠片もない友人に小さく苦笑しながらソファーに腰掛けた。律と一緒に買い物に行った詩のいないリビングで露風がまた煙草に火を点ける。 「急に来たと思ったらなんだよ」 「アイツの借りた金がどの程度なのかと思って」 「菫に聞けばいいだろ、そんなの」 「うぜえな、答えろよ」 言葉足らずにも程がある、というよりは、わざと人の嫌がる振る舞いをして距離を取りたがるこの男は、隣でぷかぷかと怠惰に煙を吹かしている。 菫が実家を出るのに最低限必要な身の回りのものを揃えるために貸した金は、ざっと数えて百万ほどなはずだ。だけどそんなことを何故わざわざ俺に聞きに来るのか。 「百万ちょいだよ、それがなんだ?」 「返すのに結構かかりそうなら俺が肩代わりした方が手っ取り早いだろ」 「必要ないだろ、別に急いでない」 「お前はそうだろうけど」 むしろ本当は代わりに全額払ってもいいと菫には申し出たのだ。だけど自分の力でちゃんと自立しなければ意味がないと菫が頑なに拒むから、金を貸すことにした。 こっちは金の返済を急かす気なんかさらさらないし、露風が肩代わりする必要もない。俺だって菫に金を貸してもまだ、自分の妻と弟を養うくらいの甲斐性はある。
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