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「きっとすごく心配してるんですね」
「心配し過ぎて勝手に借金肩代わろうとしてた」
「あ、菫の引っ越しの時の?」
「そうそう」
隣に潜り込んできた詩がくすくすと笑いながら寝転がるので、俺は部屋の照明を落とし、代わりに枕元のランプを点けた。
「ふたり一緒にいるとどんな感じなんだろ?」
「今度また菫の家遊びに行くか」
「でも露風さんが不機嫌になっちゃいますよ?」
「別にいいだろ」
不機嫌にぐらいなればいいのだ。
俺の大事な後輩を、一度は泣かせたのだから。
両親に一度露風と引き離されたあとの菫はまるで迷子の子供が親を探すみたいに、可哀想なぐらい露風に会いたいと言って泣いていた。
なのに菫が勇気を振り絞って露風に会いに行ったとき、あの馬鹿は勝手な臆病風に吹かれて菫を拒絶したのだ。自分だって本当は菫のことが可愛くて仕方ないくせに。
「露風さんには厳しいんだから」
「愛情の裏返しだよ、アイツは頭がいいのにこの手のことには馬鹿だからな」
「でも優しいから、絶対菫は大事にされますよ」
「詩は露風に甘すぎないか?」
枕の腕に肘を突きながら、詩の前髪を撫でた。
ヘーゼルの瞳が俺を見上げる。
露風のどこに優しさを見出しているのか謎過ぎるのだが、詩の評価はずっとこうだ。俺としては若干気に食わないものの、まあ今はひとまず置いておこう。
「幸せになって欲しいです、ふたりとも」
「そうだな」
抱えた傷の多いふたりだ。
だからこの先は、健やかであって欲しい。
静かな夜の帳の中で詩がうつらうつらと船を漕ぎ始める。なだらかに上下する胸元を布団の上から淡く叩きながら、俺は無愛想な友人と可愛い後輩を頭の中で並べた。
脳内に描き出されたその姿は、微笑ましいほど似合いのふたりだったから。
なんだか俺まで、妙に照れ臭かった。
──Intermission
Fin.
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