Extra sound. 03

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しかし一方の菫は「私はあんまり強くないので嗜む程度です」と言って、そのくせ俺と一緒に飲むために買い込んできたのだと、トートバックから惣菜を取り出す。 「的場さんとデパ地下に寄ってきました」 「相変わらず仲良しだな」 「はい」 最近の菫はすっかり的場に懐いた様子でとても仲が良い。仕事上のパートナーと信頼関係を築けているのは良いことだが、どうでもいい犬の写真を毎晩見せられるのは正直面倒だ。 俺がパソコンを退かしたテーブルの上にチーズやローストビーフが並ぶ。また役に立たない雑学を菫が喋っているのを聞き流し、戸棚からグラスを取り出す。 「季節ものってワクワクしますよね」 「でもお前、赤ワインそんな飲めねえんだろ?」 「味があんまり好きじゃないです」 「他にも酒あったっけ?」 菫はこれまでもちょこちょこ現場やスポンサー先から土産をもらってきていた。シンクの下の扉を開けてその残骸を漁ると、白のデザートワインがまだ残っていた。 「こっちも冷やしとくか」 「あ、そのアイスワインあったの忘れてました」 「なんかここにあったけど貰い物?」 「それは先輩がくれて」 蒼が仕事でウィーンに行った際の土産なのだと嬉しそうにしている。細長いボトルに貼られた赤いラベルには確かにオーストリアの文字があった。 アイスワインはその名の通り凍らせた状態のまま収穫されたブドウから作られるワインだ。寒冷地でしか製造できない上に、昨今地球温暖化の影響もあって希少価値が高くなっていることぐらいは俺も知っている。
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