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「プロの方は凄いですよね、やっぱり」
「写真に撮られるだけでそんな違うもんか?」
「ポーズの種類とか表情の作り方とか、素人とは全然違いますよ、やっぱり」
「そんなプロばっかの中で浮いてねえの」
「嫌なこと聞かないでください」
浮かないわけないじゃないですか、と嘆く。
雑誌に出されるたび自分の場違いに申し訳ない気持ちでいっぱいだと項垂れる菫は、小ぶりのワイングラスに注がれたボジョレーにちびちびと口を付ける。
「そもそも人前に出るの好きじゃないし…」
「あんな観客の前で弾くのにか?」
「でも舞台は慣れてるし、演奏に集中してるから大丈夫なんですよね」
「プロモーションも大変だな」
俺は学会で発表する時か、授業で教壇に立つ時以外で人前に出ることのない職業だ。大勢の人間に囲まれて写真を撮られるなんて考えただけでも嫌気が差す。
「有名にならないとスポンサー付かないので」
「演奏家も大変だな、色々と」
「お客さんが聴きに来るのは確かに音楽なんですけど、音が鳴ってるとき以外は、やっぱり音楽もビジネスなんですよね」
仕事なので当然ですけど、と苦笑する。
浮世離れしているはずの菫らしくないこの辺りの感覚は、きっとあの息苦しい家の中で延々と植え付けられてきたものだろう。
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