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「……ほん、と、嫌なひとですね」
情動的にキスをした唇からは微かなアルコールが混じり合う。渋みの薄い爽やかなボジョレーの味わいが舌先の上でとろりと溶けてゆく。
このままここで押し倒すかと少し迷って、それはさすがに余裕がなさすぎるだろうと薄っぺらい体を持ち上げた。寝室の電気は点けずに、暗がりの中に菫を連れ込む。
柔らかな肌が酷くこの手に馴染む。
淫らに甘い嬌声が、狂おしく恍惚な夜を劈いた。
𓂃𓂃𓍯𓈒𓏸𓂂𓐍◌ 𓂅𓈒𓏸𓐍
「飲み直すぞ」
中途半端なまま放置していた料理と酒をトレーに乗せて寝室に運ぶと、まだベッドの上でグズグズしていた菫が驚いた顔をする。
「え、ベッドの上で?」
「だらだら飲むなら最適だろ、ここが」
「でもお行儀悪いし、お酒こぼしたりしたら…」
「洗えばいいだろ、洗えば」
品行方正が染み付いている菫は慌てた様子で服を探しているので、寝室のクローゼットから俺のスウェットを取り出して放り投げた。
乱れきったシーツの上にトレーごと置いた俺が勝手に酒盛りを始めていると、とりあえず頭からスウェットを被った菫がおずおずと戸惑いがちにこちらを窺う。
「お行儀悪いですよ、こんなところで…」
「行儀悪いから美味いんだろ、こういうもんは」
「…そういうもの、なんですか?」
「つべこべ言わずに飲め」
どこまで行っても良いとこ育ちのお嬢様は、基本世間知らずで常識に欠ける割りに、マナーや行儀にはうるさいところがある。
休日に予定がなくとも起きてすぐパジャマから余所行きの服に着替えたり、俺がコンビニで肉まんを買い食いすると目を丸くしたり、妙なところがお堅いのだ。
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