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猫がいる
病床からおじいちゃんは泣きじゃくる僕にこう言った。
「いいかい彰。おじいちゃんはこれから天国に行くけど、彰が悲しくて泣いてしまうのは、おじいちゃんと家族になれて良かったと思うからだ。彰が泣いてくれるから、安心して天国に行けるよ。彰と家族になれて良かったよ」
その言葉の数日後、おじいちゃんは天国へと旅立った。僕の人生の中で一番最初に訪れた別れ。おじいちゃんの言葉は僕の中にずっと根付いている。
家族を大切にしなさい。友達を大切にしなさい。女の子を大切にしなさい。色んな大切にしなさいを耳にしてきたけど、やっぱり一番響いているのはおじいちゃんの言葉だ。
おじいちゃんが亡くなって、僕は毎日つまらなく過ごしていた。そんな中、お父さんが仔猫を家に連れてきた。
「お父さん、どうしたの?」
僕の問いにお父さんは困ったように笑う。
「彰があんまり寂しそうだからさ……」
お母さんとも相談の上に決めたそうだ。
「僕、生き物飼う自信ないよ……」
「彰だけで育てる訳じゃないんだよ。今日からこの子は家族だからね」
「家族……」
おじいちゃんの言葉を思い出して、僕はつい涙をこぼす。今の僕は涙腺が緩み過ぎだ。
「彰、名前を付けてくれ。彰が付けるんだよ」
「うん……。ちぃにする。小さくて可愛いから」
「ちぃか。可愛い名前だな」
ケースの中で怯えていたちぃに僕は手を伸ばす。
「怖くないよ。怖くないから」
抵抗するだけの力が育っていないちぃをケースから出して胸に抱く。指で頭や背を撫でてやると、ちぃは前足もモニュモニュと動かす。
「なんでこんなことするのかな?」
「それはお母さんのおっぱい飲むときにする仕草だよ。彰に甘えているんだよ」
「へぇ。お父さん、詳しいね」
「お父さんも彰くらいの年に猫を飼ってたからね」
「だから猫なの?」
「ああ。お父さんの好みだよ」
夕飯の支度をしているお母さんが呆れていた。
「彰の好きな動物にすれば良かったのにねぇ」
「お母さん、僕はちぃがいいから問題ないよ」
ちぃはニャウと小さく鳴く。ちぃが何を思っているか分からないけど、君は今日から家族なんだ。
まだ小さいうちはちぃはケースの中で眠る。あんまり小さいものだから、家の中にある隙間とかに入り込まれたら手の施しようがない。しつけも小さいうちから。僕は猫の飼い方の本なんか読んで勉強もする。何かあったときのための獣医さんも決めておく。ある程度大きくなったら去勢するとお父さんは言っていた。ちぃが長く安全に生きるために必要なんだそうだ。
ちぃが来たからといって、おじいちゃんが天国に旅立った悲しみが癒える訳ではないけど、それとは別にちぃがいる家は明るくなった。何をしでかすか分からない。それが動物を飼う醍醐味でもあるのだろう。
ちぃへのエサやりもトイレの片付けも僕が率先してやった。逆にお父さんやお母さんに先にやられていると、僕がやるからいい! と逆ギレしてしまう。
本当に夢中だったのだろう。
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