猫がいる

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 おじいちゃんが天国に旅立って数年。確かにお父さんの言うようにちぃがいたから僕は持ちこたえられたのかも知れない。大好きなおじいちゃんと入れ違いに来たちぃ。僕が中学生になる頃には、ちぃは毎晩僕のベッドで眠る。夏場なんかちぃの熱が熱すぎて、そっと離れたりすると気配を察してちぃはすぐに僕に引っ付いてくる。寒い冬はちぃを抱いて寝たいのに、そういうときは布団の上の足元で丸まる。こっちの期待通りになんか全く動かないけど、それが何とも可愛いんだ。  中学生になるとクラスメイトに恋バナの一つ二つは湧いてくる。男子連中は小学生の頃は興味ありませんなんて体のやつばかりだったのに、中学生になった途端に色気付く。誰それが告白しました告白されました付き合いました別れました。そんな話が日常の中に紛れ込んでくる。僕ももちろん例外なく、クラスメイトの一人に好意を寄せていた。  とにかく話したくて、僕が話題にあげるのはちぃの話だ。 「昨日、シャンプーしてあげたら僕もびしょ濡れになっちゃってさ」 「猫缶よりちゅーるのほうが食いつきいいんだよ」 「やっぱりちぃのフォルムは世界で一番可愛いと思うんだ」  僕が想いを寄せる灯里ちゃんは、クラスでは目立たないタイプの子だけど、いっつも穏やかに笑っていて、僕のちぃの話にも笑顔で接してくれる。 「彰くんは、本当にちぃが好きなんだね。妬けちゃうな」  そう言われた日には胸が高鳴った。この恋を成就させるにはどうすればいいか。僕が最初に導き出した答えはやはりちぃが関係していた。 「家にちぃを見に来ない?」  悟られないように出した言葉。それは大いなる勇気を出しての言葉だった。 「そうだね。彰くんがベタ惚れのちぃがどんなに可愛いか確認しなくちゃ」  多分、灯里ちゃんは本当にちぃに興味があるのだろう。好きになったきっかけを聞かれたとして、僕は言葉には表せないだろう。ただ、この気持ちを大事にする。今まで会ってきた人の中で一生を誰と共にしたいかと問われるならば間違いなく灯里ちゃんだ。  穏やかな空気を纏う灯里ちゃんが好きだ。  週末、灯里ちゃんは約束通りに僕の家に来た。お父さんなんか、彰が女の子を連れてきた! って喜んでいたし、お母さんはお昼ごはんは張り切っちゃうね! って言わなくていいことを灯里ちゃんの目の前で僕に告げた。 「彰くんのご両親、面白いね」 「そうかな? 僕はちょっと恥ずかしいけど……。それよりちぃを見てよ!」  そう言って、昨夜、大掃除をした僕の部屋に向かう。そこのベッドの上でちぃは寝息を立てていた。 「丸まってるね」  灯里ちゃんは、そっとちぃの背中を撫でる。 「温かいね」 「猫って熱いんだよ。冬場は一緒にいればありがたいけど、夏場は本当に参っちゃう」 「でも、くっついてて欲しいんでしょ?」 「そりゃまぁ。僕の部屋にちぃのいない夜は寂しいし」
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