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「なんかゴロゴロいってる」
「灯里ちゃんの手が気持ちいいんだよ」
「これじゃ彰くんがベタ惚れしちゃうよねぇ。これからちょくちょく見に来ていい?」
「もちろん! 毎日でもいいくらいだよ!」
なんてやり取りをして、二人でゲームをして、お母さんの言うちょっと張り切ったお昼ごはんを食べてから灯里ちゃんは帰っていった。今日は一日ありがとうございましたと両親に頭を下げて行ったものだから、親受けも悪くはない。
「いい子だなぁ。彰にはもったいない」
「何、勝手に期待してるんだよ!」
お父さんには悪態をついたが確かに僕にはもったいないかも知れない。諦める気なんかサラサラないけど。次の週末も灯里ちゃんは来てくれた。その次の週末も。やることは他愛もないことばかりなのに、僕の膝の上や灯里ちゃんの膝の上にちぃを乗せて過ごす時間は本当に穏やかでついおじいちゃんの言葉を思い出す。もし灯里ちゃんと家族になれたなら……なんて妄想するのも悪くはない。これなら告白も上手くいくんじゃないかと僕はちょっと高をくくっていた。
何度、灯里ちゃんは僕の家に訪れてくれただろう? 僕が決意を固めて打ち明けたのは夏休みが近くなった日。場所は僕の部屋。そこにはいつものようにちぃがいた。
「灯里ちゃん、あのさ……」
灯里ちゃんの膝の上にはちぃがいる。二人で映画を見ていた時間。灯里ちゃんが、どうしたの? と僕の顔を覗く。
「あのさ……、僕、灯里ちゃんが好きなんだ……。これからは友達としてではなく恋人として隣にいてください」
灯里ちゃんの手は愛おしいそうにちぃを撫でている。何事か考えているようだった。
「……一つだけ答えてくれない?」
僕は息を飲む。何を言われるか。僕のことが嫌いならば、僕の家に遊びにも来ないだろう。ただそれは憶測にしか過ぎない。頷いた僕に灯里ちゃんは問いかける。
「私とちぃのどちらかを選べと言われたら彰くんはどちらを選ぶの?」
目の前が真っ暗になる。灯里ちゃんのことは好きだ。好きだけど、そのために家族であるちぃと別れることなんかできない。
「ちぃは家族だ。灯里ちゃんは好きだけど、ちぃと別れろと言うなら僕は灯里ちゃんを諦める……」
答えなんか決まっていた。猫だとしても、ちぃは大切な家族だ。家族を見捨てるなんて僕にはできやしない。
「良かった。これからは私を彰の恋人として隣にいさせてください」
灯里ちゃんのその言葉を聞いたとき、ついボロボロと涙が流れた。
「僕を……試したの?」
「うん。ごめんね。彰くんが本当にちぃを大切にしているか聞きたかったの。彰くんの気持ちには気付いていたけど、今の質問でよく分かった。彰くんは誠実で優しい人だ。分かっていたけど、やっぱり私の見る目に間違いはなかったよ」
「うん……。ありがとう……」
思わず、ちぃを抱き締める。脳裏におじいちゃんの言葉が浮かぶ。おじいちゃんのあの言葉が僕の中に生きているから、即答できた。僕を構成する上で一番重要なものかも知れない。
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