猫がいる

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 秋の気配の立ち込める週末。ほろ酔いで帰宅した僕が見たもの。テーブルに肘をつけて泣いている灯里ちゃんだった。 「灯里ちゃん、どうしたの?」  僕は灯里ちゃんに駆け寄り背中に手を当てる。 「具合悪いの?」  灯里ちゃんは、ブンブンと首を振る。 「違う……。違うの……」 「何かあったの?」 「ごめんなさい……。寂しくて……。彰くんは会社の付き合いなんだから、こんなのいけないって分かっているのに……。大丈夫、ちぃがいるから……」 「灯里ちゃん……。いいよ。控えるよ。灯里ちゃんのほうが大事だから」 「いいから……。大丈夫だから……」  灯里ちゃんはそう言ったが飲み会は控えるようにして、その代わりに灯里ちゃんとの外食を増やした。同僚にその話をしたらば、奥さん大事にしろよと励ましてくれた。  社会人として月日を重ねる。それもまた変わらないようで少しずつ変化をしていく。僕らが年齢を重ねるようにちぃもまた年を重ねる。僕らの側に当たり前にいるちぃ。いつかは来るだろうと覚悟している日がある。どんな生き物にも訪れるその時。そう、おじいちゃんのときのように。  僕がちぃに出会ってから十八年目。ちぃの体力は見てもわかるように衰えていた。エサの食べる量も減り、ずっと寝てばかりいる。獣医にも連れて行ったが加齢によるものだと言われて、いよいよ覚悟しなければならないときが来た。  灯里ちゃんは、ちぃを撫でている時間が増えた。僕もなるべく灯里ちゃんとちぃの側にいる。僕が仕事に行っている時間、灯里ちゃんは辛そうにしているちぃをずっと見ているのだ。本当だったら僕もちぃの側にいたい。ちぃは家族だ。家族が苦しんでいるとき、側にいてあげたいのは当たり前の話だ。  少しずつちぃの呼吸の音は小さくなっていく。灯里ちゃんは、夜もあまり眠れないようでちぃを頭の横に置いてずっと撫でている。  僕は灯里ちゃんが涙を流すのを見落とさなかった。 「灯里ちゃん、大丈夫? 無理しすぎだよ?」 「だって……、ちぃが……」  ボロボロと涙をこぼす灯里ちゃん。僕はちぃの上から灯里ちゃんの頭に手を伸ばす。 「灯里ちゃん、悲しくて泣けるということは家族になれて良かったという証明なんだ。灯里ちゃんがちゃんと泣くからちぃは安心して旅立てるんだ。ちゃんと見送ってあげよう。だから無理はしないで」  灯里ちゃんは首を縦に振る。 「私、彰くんとちぃと家族になれて良かった。ちゃんと見送る。家族になれたことに後悔はないから」
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