32人が本棚に入れています
本棚に追加
「どう? これが私の処女喪失の可哀想な思い出?」
真鍋はあっけらかんとして、笑い話でもした後のように言った。
そして、さらなる驚きの言葉を続けた。
「秘密で、お父様と私のDNA鑑定をしてみたわ? 血の繋がりは無かった。流石にそれ以上は、もうどうでも良くなって調べなかったけどね。まあ、大体想像は付くわ」
「……あ、あのぉ?」
と言った声が震えていた。
「何?」
「僕、そろそろ門限なんで帰ります……。母に怒られるので」
「はぁ? 君、お母様とは、もうずっと疎遠でしょ? 声震えてるけど?」
「そっ、そんな事ないですよ? 今も家で晩御飯を作って待ってます! もう帰らないと心配する!? 今日、僕の大好物のカレーなんで、もう返してくださいっ!」
半泣きで言った。
「なんで、そういう嘘つくの? ——て言うか、なんで士鶴君標準語なのかな? ん?」
「違うんですっ!? 僕、大阪生まれなんですけど、本当は人生ほぼ埼玉で暮らしてたんです! だから、もう門限が……っ!?」
「そんな事、調べたから知ってるわよ? 門限門限て、意味分かんないわ? 支離滅裂になってるわよ? 三石家の大スキャンダル知って、簡単に帰れると思ってんの? チミィー?」
「えぇ……っ!?」
「別に吠兎なんか使わなくともね? 十分あなた達を三石家の財力と権力で、追い込めるのよ? ある日突然、光熱費が10倍に跳ね上がったり、どこの部屋も借りれなくなったり、女児への痴漢で全国デビューとかも良いわね? 勿論、冤罪でね?」
「そっ、そんな……。そんな事されたら、女の子に一生変態野郎とキモがられてしまうじゃないですかっ?」
「話したく無かったのに、興味本位でズケズケ私の辛い過去をほじくって、逃げれると思ってるの? あなた達2人にはね? 聞いた重い責任があるのよ?」
「そんなに、ほじくって無いじゃないですか……? ちょっと聞いたら、自分から話したんじゃないですか……? こんなヘビーな話だなんて、知らなかったんです……。」
「問答無用! 男でしょっ? 言い訳しないでっ!? 責任取りなさいよ?」
「えぇ……。責任て」
「私に協力すんのよ?」
「えぇ……。」
「秘密も話したし、君たちの事もよく知ってるし、もう私達仲間ね?」
と真鍋は、今までで一番の優しく怖い笑顔で微笑んだ。
「……えぇっ!?」
状況を見守っていた銀太は
「——士鶴、逃げるぞっ!!」
そう叫ぶと、窓に向かい走った。
士鶴はその後を必死に追う。
「涙牙っ!」
銀太の声で現れた涙牙が、窓を破壊すると、2人はそこから闇の中へ飛び出た。
「ちょっとっ!?」と真鍋は後を追い、破壊された窓から外を見て呟く「此処2階よ? まったく。ちょっと脅かしただけじゃない? 男の癖に、根性無しね……。」と頭を掻いた。
眼下に闇の中を逃げて行く、銀太達が薄っすらと見えた。
闇の中を走る銀太達——。
「お前の標準語、初めて聞いたわ」
「ワイもびっくりしたわっ!」
「あっ、戻った!? お前って、ガチでテンパると標準語になんだな?」
「……。」
比嘉士鶴。25歳にして、どうでもいい新たな自分を発見した夜であった。
「あんなん聞かされて、どないせいっちゅうねん!」
「あれはでもヤバイな。自分から弱みを俺達に握らせて、そこから揺さぶり掛けようってんだからな。あの人は、一筋縄では行かないタイプだよ。もう関わるのをやめよう……。人間関係エグいのはどんな怨霊より苦手だ」
「せやな……。」
そんな銀太達を、真鍋は追う事は無かった。
ただ上から、闇に消えた2人をずっと見ていた。
別に今とっ捕まえても、意味はない。どうせまた会う事になる。
そう確信していたからだ。
一段落ついて、ふっとため息を1つ吐こうとした時——。
ドンッ!! という、爆音が聞こえて、庭の奥で炎が上がるのが見えた。
銀達が逃げた方角だ。
「ちょっと、あの子達何してんのっ!?」
真鍋は血相を変えて、部屋を飛び出した。
最初のコメントを投稿しよう!