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威嚇する子ども
手負いの獣のような男の子だと思った。
精一杯毛を逆立ててこちらを威嚇している。
「芹というのは、素敵な名前だね。春生まれなのかな?」
僕が問うと、彼は挑むような目で答えた。
「死んだ姉の名が芹菜」
「お姉さん、亡くなられたの?」
芹は行儀悪く脚を投げ出し、一人がけのソファに沈み込んだ。僕から目を逸らし、ローテーブルの上の砂糖壺のあたりを睨みつけた。
僕は兄の顔を見た。説明を求めたかった。
兄は左腕の時計を見た。兄はいつも急いでいる。
兄にとって僕は貴重な時間を費やすべき相手ではないのだ。おそらく芹のことも、素早く片付けてしまうべき問題なのだろう。
「一昨日のメールの添付ファイルに家族構成が入っていただろう」
兄はビジネスライクに話を進める。
芹は兄の息子にあたる。義理の息子だ。
僕は頭の中に家系図を思い浮かべる。家系図というか、存外入り組んだ樹形図というか。
兄は三年前に離婚した。そして先月再婚した。
兄はボストンに住まいがある。兄と新しい奥さんとは、ボストンで新しい生活を始める。そこで芹の問題が持ち上がった。
芹は兄の再婚相手の連れ子だ。つまり兄とは血の繋がりがない。
もちろん僕とも血の繋がりがないし、縁もないに等しい。
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