袋はなしで

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「ちょっと、大丈夫?」 「あぁすいません、ちょっとクラッとしちゃって」 品出しの途中、立ち上がるとほんの一瞬足元がふわりとして倒れかけてしまった。見かねた先輩が駆け寄ってきて肩を支えてくれる。 心当たりは、あるけど…。大いに心配をかけてしまって申し訳ないな…。 「最近働き過ぎなんじゃない?裏で休んできたら?というか今日はもう店長に言って早退とか…ちょっと待ってて!水持ってくる!」 「大丈夫です、軽い貧血だと思うんで、ちょっと休憩すれ、ば…」 先輩が肩を離した途端、身体に力が入らなくなって顔から地面に倒れそうになった…と思ったら、がっしりと誰かの腕が俺を抱き留めてくれた。 危なかった…。また先輩に迷惑をかけてしまっただろうか、申し訳…な…い。あれ?先輩じゃ、ない…。 「おにいさーん、今日は問答無用でもらってくから」 「は…え…アンタ…」 見上げると、いつものへにゃりとした笑みではなく無表情で俺を見下ろす色素の薄い瞳と目が合った。 静かに…怒っている気がする。そのせいかな、ほんの少し寒気がして…誰かと誰かの会話を聞きながら俺は眠気に抗えず瞼を閉じたのだった。 表情の割に案外優しい腕の中を心地好いだなんて、思いながら。
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