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三千世界を遍く照らす巨大な彗星が落ちた時、そこにひとりの天狗の王子様が誕生しました
王子様は裸同然の無垢なまま生まれたので、一人で生きていくために大変な苦労をしました
※※※
その店は基本はバースタイルで、カウンターレディと呼ばれる店員の中から、客が気に入った子がいれば指名料を払ってボックス席で接客をしてもらえ、交渉次第ではホテルも可能というお股の緩い店であった
良心的なことに、ホテルでの交渉代に店の取り分はなく、そのまま自分の懐に入るとあって、てっとり早く稼ぎたい層はこぞってその店の門を叩いた
しかし、オーナーは店員の選別には厳しく、さらに教育も厳しかったため、誰にでも勤まるというものではなかった
そのおかげで店の評判はいつしか上がり、人気店ゆえに客もどんどん一流になっていった
「お松、指名」
「はーい!」
カウンターレディの松の郷は男である
レディと言うから誤解されるが、男も女もまとめてレディで、タチもネコもいれば、Sの女王様やタチの女の子もいる
客にノンケが多いだけで、ゲイの客がいれば少ないながらも精鋭な男性スタッフが応じる
その中でも松の郷は大大大ベテランで、いつからあるかわからない店にオープニング当初から在籍しているという噂だ
5年前からいるスタッフによれば、5年前から松の郷の容姿は少しも変わっていないと言う
背は低めで華奢な体つきで、色白で金髪だから一部の客からは『王子様』と呼ばれて親しまれている
松の郷が言われたテーブルに向かうと、そこにはいかにも仕事ができそうなサラリーマンが座っていた
「はじめまして。松の郷です」
「はじめまして。思ったよりいかつい名前だった。本名?」
「はい。似合わないかな?」
松の郷はサラリーマンと腿と腿がくっつくギリギリのところに座った
「そんなことないよ」
サラリーマンの顔がにやけた
体が触れ合う接客は大歓迎という証拠だ
松の郷は次に氷の溶けたお酒に目を止めた
「新しいのお作りしますね。何になさいますか?」
「じゃあジンライムで」
松の郷がジンライムを作っている間、サラリーマンは松の郷の白くて細い手元を凝視していた
「ここって、カウンターレディと言っても女の子だけじゃないんだね。びっくりしたよ」
「そうなんです。うちのお店はカウンターに立っている子なら男でも女でも好みのタイプを選んでいいことになってて。おにーさんはなんで僕を?」
松の郷は出来上がったお酒を両手で持ってサラリーマンに手渡した
サラリーマンは一口飲むと顔を緩ませ、
「お客さんに誘われて来たんだけど、そのお客さんが指名料は持つから好きに指名してと言ってくれて…でも俺はゲイだし、素直に男性を選んでいいものか迷ってたらお客さんはお店の女の子と消えちゃって、それなら隠す必要もないやと…」
「じゃあ男だったら誰でもよかったんだ?」
松の郷がサラリーマンの腿に手を置いた
サラリーマンの脚がピクッと動いた
サラリーマンはぼーっとした顔で松の郷を見つめると、
「最初に店に入った時、一番に君に目を奪われたし…」
と言った
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