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サラリーマンは先ほど松の郷を呼んだフロアスタッフの顔を盗み見て、
「僕もお松って呼んでいいの?」
「うん。松の郷って呼びづらいから。松、でもおまっちゃん、でも好きに呼んでください」
松の郷が笑うと眉毛が八の字に下がる
それがかわいくて、サラリーマンは思わず松の郷の肩を抱き寄せた
「お客さん、たまってんの?」
松の郷はピクリともせずにサラリーマンの耳元で囁いた
「…かも」
「じゃあ、ついてきて」
松の郷はまだ一口しか減ってないジンライムのグラスを受け取ると、もう片方の手でサラリーマンの手を引いて立ち上がった
※※※
店の奥のカーテンの先には、同じくカーテンで仕切られた小部屋が並んでいた
大抵はきちっと閉じられているが、たまに隙間が空いている部屋があって、覗くと男女、または男男、または女女のまぐわいが見える
松の郷にとっては慣れた光景でもサラリーマンには違うようで、いちいち立ち止まっては目を皿のようにして見ている
「そこ、空いてるから」
松の郷はサラリーマンの腕を強引に引っ張って、1番奥の部屋に押し込んだ
部屋はシングルベッドが一台あるだけで、窓ひとつない
必然的にベッドに並んで腰掛けることとなる
この配置には自分にも覚えがある
サラリーマンは唾を飲み込んだ
「…やっぱり…そういうのアリなんだ」
「おにーさんもさっき言ってたじゃん。連れの人がフロアレディと消えちゃったって。ここに来るまでの間にいなかった?」
松の郷が意味深に廊下に視線を走らせた
きっときちっとカーテンが閉じられたどこかの部屋にいたのだろう
「…いくら?」
松の郷の手がサラリーマンの太ももの内側をなぞった
「何がしたいかによるかな」
「…本番は?」
「高いよ」
「いくら?」
「30分5万」
「払う」
「え」
「決まり」
いつのまにか、松の郷はサラリーマンに組み敷かれていた
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